アジア太平洋
APAC地域に広がる内装コストの多様性
アジア太平洋地域の内装市場は、都市ごとにまったく異なる様相を見せています。市場ごとの特性やコスト構造、需要の背景には大きな差異があり、一括りには捉えきれない多層的な構造が広がっています。 そのなかでも、企業テナント市場を牽引する主要拠点としては、シンガポールや香港に加え、バンガロールをはじめとするインドの主要都市が引き続き重要な役割を担っています。ただし、これらの都市においても、コスト水準やそれを押し上げる要因はそれぞれ大きく異なっています。
インド
APACで最も成長を遂げるオフィス市場
インドは、アジア太平洋地域において最も成長の著しいオフィス市場として台頭しています。その原動力となっているのが、グローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)の急速な拡大です。オフィス需要の吸収量は極めて高い水準を維持しており、活発な先行契約が見られることから、将来の需要動向についても比較的高い見通しが得られる状況にあります。プライムオフィスの賃料は、地域内でも最も高い伸び率の一つを記録しており、テナントの強い信頼感を反映しています。 また、テクノロジー主導の新たな企業群の台頭が、開発のあり方そのものを変えつつあります。これらの企業は、キャンパス型でイノベーションを促進する環境を志向する傾向が強く、大規模な複数棟で構成されるテック拠点の形成が進んでいます。 こうした動きに応える形で、デベロッパーはオフィス、住宅、商業、ホスピタリティ機能を一体化した複合開発へと舵を切り、ESG認証を備えた統合型の都市空間を創出しています。 さらに、インドの主要都市では、メトロ網の拡張や高速道路の整備、空港アクセスの改善といったインフラ整備が急速に進んでおり、従来の商業エリアの再定義と、新たなオフィス地区の創出が同時に進行しています。これを支えるかたちで、2026年までに年間6,000万平方フィートを超える新規供給が主要市場で見込まれています。
オーストラリアおよびニュージーランド
都市部で高まる需要とコスト圧力
シドニーは、アジア太平洋地域において最も高額なプレミアム内装市場であり、高仕様内装コストは1㎡あたり7,221豪ドルに達しています。この水準は、近年伸び悩みが見られた企業テナント需要が回復基調にある、オーストラリア市場全体の動向を反映したものです。 一方で、サプライチェーンには大規模プロジェクトによる強い負荷がかかっています。クイーンズランド州におけるオリンピック関連整備をはじめ、パースでのデータセンターやインフラ開発、アデレードでの防衛関連需要など、多様な分野における投資が重なり、資源と人材の逼迫を招いています。加えて、慢性的な労働力不足も相まって、コスト上昇圧力は一層強まっています。 もっとも、シドニーを除く地域の内装コストは、国際比較の観点では依然として相対的に抑えられています。オリンピック関連需要が見込まれる状況にあっても、ブリスベンの高仕様内装コストは1㎡あたり3,168豪ドルと、シドニーの半分以下の水準にとどまっています。
「需要の高いエリアでは供給が逼迫しており、テナント企業は内装の進め方そのものを見直す必要に迫られています。オーストラリア市場ではこれまで、近代的な施工手法が広く浸透していたとは言い難い状況にありましたが、近年は効率性を高めるため、あらゆる選択肢を検討する動きが強まっています。設計段階から製造を見据えたアプローチを含め、より効率的でコスト削減につながる手法への関心が高まっています。」
バリー・ゲーター、ANZ テナント・ポートフォリオ担当責任者
多くの都市で見られたコロナ禍の開発停滞は、いま、商業オフィスの供給不足というかたちで顕在化しつつあります。その影響を受け、シドニーでは既存オフィスにとどまり、改修によって価値を高めようとする動きが強まっています。もっとも、このような選択は通常、内装コストの上振れや工期の長期化を伴います。その結果として、シドニーは引き続き、コストランキングの上位に位置し続ける可能性が高いと見込まれます
東アジア
変わりゆく香港の位置づけ
近年、香港の立ち位置の変化を背景に、東京、クアラルンプール、シンガポールといった都市が相対的な恩恵を受けてきました。香港が中国本土との関係性をより強めるなかで、企業の投資や拠点戦略における選択にも変化が生じています。 一方、日本では国際的な投資が活発化しています。これは、高度な教育水準やテクノロジー志向といった国内の強みに加え、西太平洋市場へのアクセス拠点としての役割が評価されているためです。日本におけるグレードAオフィスの需要は供給を大きく上回っており、その結果、東京および大阪では高仕様内装コストがそれぞれ729,406円/㎡、706,834円/㎡にまで押し上げられています。 同様の動きは、比較的コスト水準の低い市場にも広がっています。例えばマレーシアのクアラルンプールでは、テクノロジー企業やデータセンター関連企業の進出が相次ぎ、多言語対応が可能なビジネス環境が中国および欧米双方の企業を引き寄せています。高仕様内装コストも6,908リンギット/㎡と上昇傾向にあります。 もっとも、シンガポールではグレードAオフィスの需要を十分に吸収しきれない状況が生じている一方で、香港にも徐々に前向きな兆しが戻りつつあり、短中期的には地域内の力学が再び均衡を取り戻す可能性も示唆されています。 香港の労働市場は依然としてコストを押し上げる要因となっており、中仕様内装の平均は21,686香港ドル/㎡と高水準にあります。ただし、この水準は日本の主要都市と比較すると依然として低く、またJane Streetをはじめとする金融機関の投資再開や大手投資銀行の拡張は、市場回復の兆しを示すものと捉えられます。
「アジア太平洋の内装市場は本質的に多様ですが、長期的には地域を横断するトレンドが徐々に明確になりつつあります。多くの新興市場は依然として活力を保ち、インドやマレーシアにおけるテクノロジー企業の拡張、そしてベトナムにおける製造業の成長など、サプライチェーンの再編に伴う動きが広がっています。」
リー・セン・ハン、APACセクター・リード
台頭する新興市場
成長の動きは香港にとどまりません。フィリピンでは、マニラをはじめとする都市が、グローバルオペレーションの拠点として存在感を高めています。とりわけBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)分野で培われた実績に加え、高い英語力を備えた人材の豊富さが、その競争力を支えています。 テクノロジーやエネルギー分野の企業は、コールセンターから人事・財務機能に至るまで、多様な業務を担うオフショア拠点として同国への投資を拡大しています。さらに、金融サービスやライフサイエンス分野においても市場の拡大が見られ、比較的低い内装コスト(中仕様で1㎡あたり94,704フィリピン・ペソ)と、高水準のプロジェクト遂行能力がその背景にあります。
加えて、特に輸入資材に依存するプロジェクトにおいては、サプライチェーンの不確実性が依然としてスケジュールの安定性に影響を及ぼしています。その結果、家具やIT機器、専門設備の調達においてリードタイムの長期化が頻発しており、移転計画にはコストと複雑性の双方が加わる状況となっています。