ヨーロッパ、中東、アフリカ
EMEA地域における内装工事コストの概況
欧州・中東・アフリカにおけるオフィス フィットアウト動向を俯瞰すると、市場環境やテナントの優先事項、そしてコストを左右する要因は、地域ごとに大きく異なっています。欧州の主要都市におけるプレミアムオフィスの供給不足から、中東・アフリカで進展する新たな需要の広がりまで、本セクションでは、これらの地域におけるオフィス フィットアウトにおける意思決定を方向づける主な要因を読み解いていきます。
ヨーロッパ
西欧で高まる人材競争と空間投資
チューリッヒでは、高仕様内装コストが4,891スイスフランに達しており、もともと建設コストの高い市場として知られる同国の特性を反映しています。さらに、金融やプロフェッショナルサービス分野の企業が主導する“高品質志向”の高まりにより、高級仕上げや充実した共用設備・サービスへの投資が進み、地域全体で内装コストは一段と押し上げられています。
ミュンヘンの高仕様コストは4,711ユーロ/㎡と、ベルリン(3,996ユーロ)やパリ(4,015ユーロ)を上回っています。これに続くダブリン(3,693ユーロ)やミラノ(3,682ユーロ)も、依然として高い水準に位置しています。 こうした歴史的に高水準なコストの背景には、パンデミック期における開発停滞の影響があります。その余波として、多くの欧州主要都市ではプライムグレードAオフィスの供給が限られ、需給の逼迫を招いています。また、サプライチェーンの地域内回帰も進みつつあり、海外調達と比較してコスト上昇要因となる一方で、地政学的リスクへの耐性向上という側面も持ち合わせています。
同時に、テクノロジー、メディア、法務、金融、プロフェッショナルサービスといった主要分野における人材獲得競争の激化が、テナント企業の意思決定に大きな影響を及ぼしています。企業は、空間の質や従業員・顧客への提供価値について妥協しない姿勢を強めており、オフィスには従来の機能を超えた魅力が求められています。スリープポッドやゴルフシミュレーター、さらにはミシュラン星付きシェフによるダイニングといった要素も、その一端として現れています。
ロンドン市場が生み出すコスト構造
英国の首都ロンドンでは、シティおよびカナリー・ワーフ双方において、20万平方フィート(約1.86万㎡)を超える大規模な本社オフィスへの需要が引き続き高い水準で推移しています。 ロンドンは依然として英国国内で最も内装コストが高い市場であり、地域都市と比較すると、高仕様内装では少なくとも1㎡あたり1,700ポンド(約161ポンド/平方フィート)以上の差が見られます。この背景には、Tier1ゼネコンや機械・電気設備(M&E)専門業者の供給が限られていることが挙げられます。とりわけデータセンター分野などとの人材・リソースの競合が、供給の逼迫を一層強めています。
「ロンドンは引き続き、金融セクターの中核都市としての強さを発揮しています。今後、首都圏における大規模な内装投資の次の波を牽引するのは、まさにこうした企業です。」
ゴードン・グラハム、コスト マネージメント ロンドン ディレクター
地域間のコスト格差の変化
本年のレポートでは、ワルシャワをはじめとする複数の欧州都市を新たに対象に加えています。これらの都市は、中東欧市場全体の動向を映し出す指標ともなり得る存在です。 市場の水準を測る一つの指標として中仕様のコストに着目すると、ワルシャワでは1㎡あたり8,343ズウォティと、今回掲載されている他のEU市場と比較して大幅に低い水準にとどまっています。これは、一般的に労働コストや地場材料の価格が相対的に抑えられていることを反映したものです。
しかし、多国籍企業が世界各地でワークプレイスの一貫性を重視する傾向を強めるなかで、中東欧における内装の品質や求められる水準は、西欧の市場とほぼ差が見られなくなりつつあります。こうした流れを踏まえると、今後、より多くの企業が統一された高品質な内装を求めるようになるにつれ、地域間のコスト差は次第に縮小していくものと見込まれます。
また、本年のレポートではマドリードとミラノも新たに対象都市として加わりました。いずれもテナント需要が堅調な市場であり、高仕様内装のコスト水準も互いに近い位置にあります。
「従来の主要都市にとどまらず、より幅広い地域でテナントの関心が高まっています。企業は「人がオフィスに集まる」のを待つのではなく、「人のいる場所にオフィスを設ける」という発想へとシフトしつつあります。」
ルーク・バルトロ、ヨーロッパ地域 テナント・ポートフォリオ部門責任者
中東
中東市場の強靭さが支える成長
近年の地政学的緊張は、中東地域に一時的な不確実性をもたらし、プロジェクトの一部停止やコスト見直しにおいて慎重な姿勢が見られるようになっています。しかし、意思決定やサプライチェーンへの影響は限定的にとどまり、これらは総じて短期的な変動として受け止められています。同地域はこれまでも外部環境の変化を吸収し、回復してきた実績を有しており、商業不動産市場の中長期的な見通しは引き続き堅調です。
現在の紛争以前の12か月間においても、ドバイのDIFC、アブダビのADGM、リヤドのKAFDといった主要拠点を中心に、プレミアムオフィスへの需要は着実に拡大してきました。この背景には、経済の多角化、人口増加、そして国際投資の流入があります。
これらの開発は、ワークプレイスの質や体験において新たな基準を打ち立て、パフォーマンス、共用設備・サービス、そして長期的な価値に対するテナントの期待水準を押し上げています。輸入資材や専門人材への依存はコスト上昇要因となっているものの、その起点となるコスト水準が比較的低かったこともあり、市場全体としては依然として強い回復力を備えています。
サウジアラビア市場の成熟と変化
サウジアラビアは引き続き、地域の商業活動を牽引する中核的な存在であり続けています。いくつかのギガプロジェクトにおける計画の見直しは、成長の減速を意味するものではなく、市場の成熟に伴う進行段階の再調整と捉えられます。テナント需要もより明確な目的を伴うものへと変化し、質を重視した選択が強まっています。効率性や長期的なパフォーマンス、そしてワークプレイスの成果といった観点が、これまで以上に重視されるようになっています。 王国で進められている大規模開発は、引き続き国際的なテナントから強い関心と需要を集めています。短期的には、プロジェクトの進行タイミングや最適化が影響を与える場面もありますが、需要そのものの厚みが損なわれることはないと見られています。 また、「ビジョン2030」は依然として重要な推進力であり、規制環境の変化や国内における事業基盤の強化、さらには中東におけるビジネス拠点としての位置づけの高まりを背景に、グローバル企業による現地展開の加速が見られています。
「私たちが目にしているのは構造的な転換です。多くのグローバル企業が「ビジョン2030」を背景に、サウジアラビア国内に事業基盤を構築し始めています。不確実な環境下においても、テナントは引き続き品質を重視しており、内装においては柔軟性と長期的なレジリエンスが重視されています。」
ナディム・ファラー、ディレクター兼サウジアラビア(KSA)法人テナント担当責任者
短期的なプレッシャーを乗り越える確信
紛争発生前の時点では、ドバイおよびアブダビにおける高仕様オフィス内装コストは平均で約13,946ディルハム/㎡、サウジアラビアでは約14,500サウジリヤル/㎡に達していました。これは、いずれの市場においても堅調な需要に加え、とりわけサウジ国内では専門性の高い資材や人材への依存が相対的に高いことを反映しています。 総じて現在の市場環境は、「後退」ではなく「再調整」と捉えられます。こうした動きは、むしろ地域の強靭さを裏付けるものであり、中長期的な成長の軌道が維持されていることを示唆しています。
「足元の情勢は一定の慎重姿勢を促していますが、中東市場の中長期的な魅力は依然として非常に高いものがあります。」
ジョン・グラント、中東地域 テナント・ポートフォリオ部門責任者。
アフリカ
アフリカ:輸入依存が押し上げるコスト構造
世界的な経済および政治動向は、アフリカにおけるオフィス内装市場にも影響を及ぼしています。とりわけ多くの市場が為替変動の影響を受けやすい構造にあることから、その影響は顕著に表れています。ナイジェリアのように、建設取引の主要通貨として米ドルが用いられる国においても、最大80%に及ぶ輸入関税の存在により、たとえ資材の一部を現地調達していたとしても、機械・電気・配管(MEP)設備といった専門性の高い機器は大幅なコスト上昇を避けることができません。 こうした要因が重なり、ラゴスはアフリカで最も内装コストの高い市場となっており、高仕様内装では1㎡あたり3,774,935ナイラに達しています。
「現地特有の課題はあるものの、新たなオフィス空間に対する民間企業の需要は依然として衰えていません。金融機関から多国籍のプロフェッショナルサービス企業に至るまで、その動きは広がり続けています。」
ウェンディ・セルッティ、アフリカ地域不動産責任者
一方で、アフリカ市場では土地や物件の供給不足が大きな課題となるケースは比較的少なく、プレミアムオフィスの不足が意思決定に影響を及ぼす他地域とは対照的な特徴を有しています。ただし、ケープタウンやヨハネスブルグといった一部の人気エリアでは、大規模な内装プロジェクトの進行により供給が一時的に引き締まる動きも見られます。これらの多くはコールセンターや多国籍企業の現地拠点としての利用を目的としたものです。 総じて内装コストは相対的に抑えられており、ヨハネスブルグにおける中仕様内装コストは平均で25,318ランドと、依然として低水準にとどまっています。
こうした状況は、テナント企業にとって、特に高度なIT要件を伴う移転や、ハイブリッドワークに対応した環境構築を伴う場合において、初期投資の増大という形で表れています。英国やスイスといった国々は、依然として世界でも有数の高コスト市場であり、これが移転に伴う工程管理や一時移転、業務立ち上げ準備といった関連費用の押し上げにもつながっています。 その結果として、欧州・中東・アフリカ市場では、より厳格なコスト管理、段階的かつ戦略的に設計された移転計画、環境配慮を踏まえた撤去対応、そして早期の計画および調達の重要性が、これまで以上に強く認識されるようになっています。こうした取り組みは、市場の不確実性に対処しつつ、コストの予見性を確保し、円滑な移行を実現するための基盤となっています。