グローバル概要
オフィス需要は回復基調 -テナントの期待水準も上昇
コロナ禍から6年が経過し、世界全体としては一定の回復が進んでいるようにも見えます。しかし、その影響はビジネス環境において今なお継続的に残っています。
働き方の柔軟性や、従業員の価値観の変化といった潮流は、もはや一時的なものではなく、引き続き定着していくと考えられます。そうした変化の裏側で、もう一つの重要な課題が顕在化しつつあります。それは、多くの主要都市におけるハイクオリティ オフィスの供給不足です。
金融・プロフェッショナルサービス・法務領域のグローバル企業から、テクノロジー企業やスタートアップに至るまで、人材と投資を巡る競争は一層激しさを増しています。 こうした中で、企業のブランドや成長戦略を体現する質の高いオフィス空間の重要性は高まっていますが、その供給は徐々に限られつつあります。

重要局面
オフィス開発には長いリードタイムを要するため、現在、高品質のオフィス供給面において逼迫状況が加速している段階にあります。開発が数年間停滞し、正常化への回復が鈍い場合には、その影響は甚大なものとなる可能性があります。
企業は回復基調にあり、複数の地域で高い成長を遂げているものの、一部市場においては新たに拡大可能な余地が歴史的な低水準に達しています。 高まる圧力
グレードAオフィスの供給が引き締まるなかで、テナントのニーズと期待はこれまでになく高まっています。従業員や顧客は、フルタイムとまではいかなくとも、オフィスで過ごす時間を確実に増やしつつあり、かつて主流だった「余裕をもってデスクを確保する」という発想は見直しを迫られています。 その結果、これまでの“床面積の最適化(圧縮)”から、“実効性ある拡張”への転換が現実的な選択肢として浮上しています。フルタイム勤務にも耐えうる環境を前提に、空間のあり方そのものを再定義する動きが加速しているのです。 さらに、この「オフィス回帰」を一過性に終わらせないために、企業はこれまで以上に空間への投資を問われます。在宅勤務の利便性と比較されることを前提に、それに匹敵する、あるいはそれを上回る体験価値 - 快適性、機能性、そして魅力 -を備えたオフィスづくりが不可欠となっています。
共用設備・サービスやワークプレイス環境に対する要求水準が高まるなか、デジタル環境の充実度やサステナビリティへの対応といった建物性能にも、より高い評価が求められています。こうした要素が重なり合い、高品質なオフィス内装にかかるコストは上昇を続けています。
一方で、近年は多くの企業で従業員数が増加しているにもかかわらず、オフィス面積は大きく変わっていません。その結果、既存オフィスは次第に手狭となり、デスクの収容力も限界に近づきつつあり、働く人々自身が日常的に“窮屈さ”を感じる状況が生まれています。
企業活動は回復し、世界の多くの地域で力強い成長が見られる一方で、その成長を受け止めるためのオフィス供給は、一部の市場では過去最低水準にまで落ち込んでいます。
意思決定の分岐点
従来であれば、こうした状況では同一マーケット内で、より広く、より高機能なオフィスへと移転するのが一般的でした。新たな要件に合わせて専用に設計された空間を確保、あるいは新設する——それが自然な選択肢だったと言えます。 しかし現在では、限られたグレードAオフィスに対する需要の高まりとコスト上昇が、その選択を現実的に難しくしています。その結果、既存オフィスの改修が有力な選択肢として浮上しているほか、CBD(都市部)を離れる、あるいは近隣の別エリアへ拠点を移すといった判断も視野に入り始めています。 もっとも、いずれの選択にも固有の課題が伴います。既存スペースの改修は一見すると取り組みやすいように思われますが、実際には業務を継続しながらの工事となるケースも多く、事業活動への影響は避けられません。 さらに、デジタル化が進展し、AIをはじめとする技術がオフィスに求められる機能水準そのものを押し上げているいま、理想的な改修オフィスを実現するには、複雑な施工や運用上の制約だけでなく、それ相応のコスト負担も見込む必要があります。
均衡の見極め
ロンドンやニューヨークのような地域で見られるような深刻なグレードA物件の不足が、すべての市場で発生しているわけではありません。一部の都市では、空室率が依然としてパンデミック前の水準を上回っています。こうした市場では、競争環境の緩和を背景に、拡張や移転の選択肢が相対的に広がり、コスト面でもより有利な条件を見出せる可能性があります。企業がポートフォリオ全体の最適化を図りながら、将来の成長に向けた“余白”を確保する上で、有効な選択肢となり得るでしょう。
重要な転換点
こうした状況を背景に、本レポートは編纂されています。本書に収録されたデータとインサイトは、この重要な転換点において意思決定を担う方々の一助となることを目的としています。
人材が流動化する時代にあって、企業もまた場所に縛られる存在ではなくなりつつあります。だからこそ、各都市における内装コストを横断的に比較し、自社のポートフォリオ戦略に落とし込むことの重要性は、これまで以上に高まっています。
複雑さと不確実性が交錯するなかにあっても、見通しそのものは決して悲観的ではありません。成長は常に道を見出すものであり、企業は限られた不動産環境のなかで必要な空間を確保するため、創意工夫を重ねています。同時に、品質を損なうことなくコストを抑制する新たなアプローチも模索され続けています。
供給面での圧力は、多くの主要市場において、2030年頃にかけて新規供給の進展とともに徐々に緩和していくと見込まれています。もっとも、その頃には内装のあり方そのものが、再び大きく捉え直されている可能性もあるでしょう。そして、その過程を経た本セクターは、より強靭なかたちへと進化していくはずです。
価値
2026年 世界の内装工事コストランキング
当社の調査結果によれば、テナントがいま価値の上流へとシフトしている実態を映し出しています。世界各地で、企業はより高い体験価値を提供する空間づくりを追求し、その存在感を高めようとしています。
もはやオフィスは、単に働くための場所にとどまりません。日常の延長としてくつろげる場であり、食事やコミュニケーションを楽しみ、発想を生み出し、人と人とをつなぐ場へと、その役割は大きく広がっています。こうした変化に伴い、求められる水準は大きく引き上げられ、同時にコストも上昇しています。
世界各都市における比較を可能にするため、本レポートでは為替の変動影響を排除した「固定為替ベース」で、高仕様内装コストを横断的に分析しています。詳細な算出方法については、こちらをご参照ください。 この基準で見ると、高仕様オフィスの内装コストが最も高い市場はニューヨークであり、これにロンドンが僅差で続きます。いずれの都市も、人材が集積するグローバルな拠点として、高い存在感を維持しており、企業がフラッグシップとなるオフィス空間を展開する場として、引き続き選好されています。
世界中で、企業は“魅力ある空間づくり”を追求しています。期待値が高まる中、それに比例するかのようにコストも上昇しています。
米国および欧州の主要都市における内装市場は、上位10都市の顔ぶれが拮抗しており、全体として接戦の構図となっています。各都市の詳細については、本レポート内の「注目地域」セクションにてご確認いただけます。一方、ブエノスアイレスは例外的な存在です。ハイパーインフレの影響により、コスト水準が大きく歪められている点に留意が必要です。
ランドスケープ
地域別に見るコスト動向
本レポートでは、世界の主要地域における内装工事の全体的なトレンドと、それらが主要市場におけるプロジェクトの建設コストにどのような影響を与えているかを分析しています。
テナントの需要の変化に加え、今年は為替レートもより大きな要因となっています。特に米ドルに対する通貨変動が例年以上に激しい状況です。当社の分析においてこれがどのように考慮されているかについては、調査方法をご覧ください。
本図表では、対象となる3つの仕様について地域ごとの平均コストを示しており、為替変動による歪みを軽減するため、為替変動の影響を除いた固定為替レートベースで分析しています。
全体として見ると、高仕様内装の平均コストは、欧州と北米で概ね同水準に位置しています。一方、インドは平均値としては大きく下回っており、これは新興市場の都市が多く含まれていることを反映しています。ただし、東京をはじめとする一部のアジア主要都市では、西欧市場と比肩する水準に達しています。 欧州・中東・アフリカ、南北アメリカ、アジア太平洋といったスーパーリージョンについては各データと調査結果をご覧ください。
SHIFTS
主要都市のコスト動向
為替変動の影響を除くと、ミュンヘン(+19.6%)、サンパウロ(+19.0%)、バンガロール(+11.6%)前年比で最も大きな上昇を示しました。これらの市場では、それぞれ異なる背景を持ちながらも、内装需要が総じて堅調に推移しており、その詳細は本レポートの特集記事で詳しく解説しています。
一方で、香港(-11.0%)およびチューリッヒ(-5.9%)では、内装コストの平均値が下落しました。これは、建設資材の供給環境が安定化に向かいつつあることを反映しています。
TRANSITION
移転コストの実像
企業がワークプレイス戦略を進化させ続ける中、移転に伴うコストは、欧州・中東・アフリカ、アジア太平洋、アメリカ大陸のいずれにおいても、内装投資全体に占める比率を拡大させています。
現代の移転は、人や設備の物理的な移動にとどまらず、ITインフラの移行、業務開始に向けた各種準備、工程の段階的な実行、設備の試運転、さらにはハイブリッドワークに対応したテクノロジーの統合など、多岐にわたる対応が求められています。
加えて、既存オフィスの原状回復や退去にあたっては、不要となる家具・什器・電気設備をいかに適切に処分または再活用するかといった、環境配慮の観点からの計画も不可欠です。これは、新拠点の構築に向けた準備であれ、拠点撤退であれ、避けては通れないプロセスとなっています。
さらに、世界的なインフレの進行、人材確保の不確実性、サプライチェーンの課題、そしてデジタルインフラへの期待の高まりといった複数の要因が重なり、移転・撤去・原状回復にかかるコストは上昇するとともに、予測の難しさも増しています。 こうした状況を受け、テナント企業はより早期の計画着手、家具・什器・設備(FF&E)の包括的な棚卸し、リスク管理の強化、そしてコスト確実性の確保に一層の重きを置くようになっています。それにより、新拠点への円滑な移行と、環境に配慮した撤去を両立させつつ、業務への影響を最小限に抑えることが求められています。 地域別の詳細な移転コストや市場動向については、欧州・中東・アフリカ、南北アメリカ、アジア太平洋の各セクションをご参照ください。

本レポートでは参考の為、左下のボタン内に表で概括的な整理を示しています。ただし、あくまで一般的な指針にとどまるものであり、修繕義務は本質的に契約条件に依拠するものです。実際のテナント責任は、合意された契約条項によって個別に定まるため、本情報を最終的な判断材料として用いないでください。すべての賃貸借契約について、個別に内容を精査することが不可欠です。あくまで参考資料です。
原状回復および修繕義務に係る負担は、物件の規模や状態、資産クラス、築年数、改装の内容、各国・地域の法令要件や市場慣行、さらには契約上の義務内容といった複数の要因によって大きく変動します。このため、平均的なコスト水準をそのまま個別案件やポートフォリオに適用することは、実態を見誤るリスクを伴います。
また、これらの義務は財務報告上の影響も及ぼします。IFRSやGAAPといった会計基準では、こうした負債に対する引当金の計上が義務付けられており、その金額は義務履行に要する最善の見積額を反映する必要があります。可能な限り、実際の契約内容に基づいた精緻な算定が望ましく、広義の前提条件に依存した概算は慎重に扱うべきとされています。こうした点からも、テナント企業にとっては、将来の原状回復・修繕義務に関する負担を正確に把握することの重要性が改めて浮き彫りになります。
従来、原状回復や修繕義務への対応は国ごとに大きく異なっていました。測量士主導の評価や法的先例に基づく交渉が確立されている市場もあれば、貸主と借主の当事者間で比較的非公式に調整されてきた市場もあります。しかし近年では、複数の市場において、請求手続きの形式化や交渉の対立化、さらには訴訟の増加といった変化が見られます。この潮流は、契約段階から義務内容を十分に理解し、契約満了を見据えた計画を早期に立てる必要性を一層強めています。
したがって、早期の評価と戦略的な計画立案が不可欠です。ターナー & タウンゼントでは、引当金の設定や負債予測の支援に加え、契約満了時の貸主との対応や交渉、退去戦略の策定、最終的な精算および工事対応に至るまで、包括的にサポートを提供しています。
詳細については、Rhiannon Goldsborough(marketing.japan@turntown.com)までお問い合わせください