アメリカ
南北アメリカにおけるオフィス フィットアウトの全体像
北米および南米における内装動向を俯瞰すると、市場が抱える圧力、テナントの期待水準、そしてプロジェクトの実行上の課題は、地域ごとに大きく異なっています。 米国の主要都市では、高品質かつ共用設備・サービスを重視したワークプレイスへのシフトが進み、いわゆる“質への移行”の動きが鮮明になっています。一方で南米では、需要の拡大に加え、輸入依存によるコスト上昇圧力や、変化し続けるワークプレイス基準が市場に影響を及ぼしています。 本セクションでは、こうした地域ごとの違いを踏まえながら、アメリカ大陸における内装の意思決定を方向づける主な要因を読み解いていきます。
北米
空間価値の競争が加速
地域ごとの市場環境には大きな違いがある一方で、共通して見られるのはプレミアムオフィスの不足です。ニューヨークやシリコンバレーでは、テクノロジー企業や金融機関を中心に、これまでにない水準の共用設備・サービスが求められるようになっており、一方で南米でも、グローバルな人材獲得競争を背景に内装の質の底上げが進んでいます。
「北米の企業テナント市場は概ね堅調に推移しています。オフィス回帰の動きに加え、多くの企業がポートフォリオ戦略を見直し、パンデミック後に注目を集めた分散型モデルから、再び主要都市へと重心を戻しつつあります。」
マイケル・ハードマン、NAM テナント・ポートフォリオ部門責任者
マイアミは、パンデミック後に人材流入が顕著だった都市の一つであり、高仕様内装コストは1平方フィートあたり402米ドルに達しています。この流れは現在やや落ち着きを見せており、投資の重心は再び東海岸・西海岸の伝統的な主要都市へと回帰しています。
ニューヨークおよびサンフランシスコでは、グレードAオフィスへの需要拡大と、アメニティを重視した内装へのシフトがコストを押し上げています。プレミアム内装の平均は、それぞれ547ドル/平方フィート、532ドル/平方フィートに達しています。ニューヨークでは、新規内装に加え、既存ストックの改修も活発化しており、20世紀に建設された高層ビルの再活用が進んでいます。これはコスト削減や脱炭素といった観点からも注目される動きです。 米国の主要市場において共用設備・サービス関連コストを押し上げている要因の一つが、デジタル化とテクノロジーの進展です。カフェやバー、コラボレーションスペースの設置にとどまらず、これらの機能自体がAIによって最適化され、さらには自律的に運用されるケースも増えています。食事の利用状況から空調や照明管理に至るまで、各種のデータが統合的に管理されることで、分析の高度化や空間運用の最適化が可能となる一方で、その初期投資は大きなコスト要因となっています。AIはもはや未来の概念ではなく、日常のオフィス運用に組み込まれる現実の技術となっており、企業はその導入と活用を巡って競争を繰り広げています。
関税政策の不透明性や中東情勢の影響により、コストの変動性は引き続き存在するものの、北米の内装市場全体としては高い回復力を維持しており、安定した基調を保っています。
ライフスタイルを見据えた空間戦略
米国の主要都市では、テクノロジー、金融、法務といった分野の企業を中心に、人材獲得競争を背景とした需要の高まりが見られます。こうした企業は、優秀な人材を引き寄せ、定着させるための手段としてオフィスの役割を再定義し、働く人々のライフスタイルやウェルビーイングにどのような価値を提供できるかに軸足を移しつつあります。 その結果、これまで主流であった「デスク密度の最適化」からの転換が進み、空間の使い方に柔軟性を持たせることで、働く人にとって魅力的な環境を創出する動きが広がっています。 サンフランシスコは近年厳しい局面が続いており、空室率は昨年後半にかけてやや改善したものの、市場としての方向性の再定義が引き続き課題となっています。それでも、テクノロジー企業やスタートアップからの支持は根強く、将来に対する一定の期待を支えています。 北に目を向けると、トロントでは高仕様内装コストが1平方フィートあたり435カナダドルに達し、バンクーバーとほぼ同水準となっています。カナダのテナント市場全体としては成長が見込まれる一方で、変化する市場環境や近年の地政学的な影響による不透明感に対応するためには、慎重なマネジメントと戦略的な計画がより一層求められます。
南米
「ラテンアメリカでは内装の品質水準が大きく引き上げられています。これに加え、特定セクターにおける需要の高まりや、グレードAオフィス床の供給制約が重なり、コスト上昇圧力となっています。また、北米との通商関係の不安定さに対応するなかで、サプライチェーンの現地化を模索する企業も増えています。」
ジャクエリナ・ダンクフォート、LATAM テナント・ポートフォリオ担当責任者
地域内の状況は一様ではありません。例えばボゴタでは、高仕様内装コストの平均は742,862コロンビア・ペソ/平方フィートと比較的抑えられている一方、ブエノスアイレスは同550,979アルゼンチン・ペソ/平方フィートで地域内でも最も高い水準に位置しています。この格差は必ずしも需要の強さによるものではなく、最大150%に及ぶ輸入関税など、輸入資材や設備にかかるコストの違いが大きく影響しています。 加えて、産業ごとの需要もコストを押し上げる要因となっています。チリでは、伝統的に強みを持つ鉱業分野を中心に引き続き大規模な投資が見込まれており、2034年までに1,045億米ドルに達する見通しです。こうした投資が需要をさらに押し上げ、サンティアゴでは高仕様内装コストが平均311,105チリ・ペソ/平方フィートに達しています。
関税の影響
同時に、米国の政策動向はラテンアメリカの企業にとって、通関手続きやリードタイム管理において新たな対応を迫る要因となっています。その結果、特に高仕様内装に必要な家具や空調設備などにおいて現地製造能力が限られているにもかかわらず、グローバル企業は可能な範囲で現地サプライヤーの活用を模索し、調達リスクやコスト上昇の抑制を図る動きが広がっています。 なお、メキシコ市場については、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の枠組みにより、こうした対外貿易政策の影響を一定程度回避できている点が特徴的です。
さらに、熟練労働者の不足が継続していることに加え、資材価格の上昇も続いており、コストに対する上昇圧力は依然として強い状況です。施工側からは、短期的にもさらなるコスト上昇が見込まれるとの見方が示されています。 こうした環境は、テナント企業にとって、より高コストな一時移転対応や、複雑な代替オフィスの活用を余儀なくする要因となっています。同時に、リスク管理とスケジュールの確実性を担保するため、計画初期段階から施工者を巻き込む必要性が、これまで以上に高まっています。