
ニューヨーク市
高品質オフィスの争奪戦
ニューヨークでは来訪者数がパンデミック前の水準へと回復しつつあり、企業テナント市場にも前向きな機運が広がっています。北米全体の傾向を反映するかたちで、企業はグレードAオフィスを求める動きを強めていますが、ニューヨークの主要エリアではこうした高品質物件の供給が限られており、その結果、既存ポートフォリオの最適化や適正規模への見直しに投資が集まっています。 需要の高さに対し、対応可能なトップクラスの施工会社が限られていることもあり、高仕様内装の平均コストは1平方フィートあたり547米ドルと、グローバルでも最も高い水準に達しています。 新規供給の不足を背景に、既存オフィスの改修(リトロフィット)を選択する企業も増えています。加えて、ニューヨーク市のLocal Law 97の存在も重要な要素となっています。この法律は、延床面積25,000平方フィートを超える建物に対し、排出量および体化炭素の削減を求めるものであり、内装プロジェクトにおいても、効率性の高い空調設備、スマートかつ省エネ型の照明・制御、さらにはサステナブルな資材の採用が不可欠となっています。 改修によるアプローチは、既存構造を活用することで解体を回避し、カーボン負荷を抑制できるという利点があります。一方で、既存の非グレードAビルを規制基準に適合させるための改修コストは大きく、その負担は賃料やリース条件を通じてテナントに転嫁される可能性もあります。特に、エネルギー効率やサステナビリティの達成責任をテナント側が負うケースでは、この影響はより顕著となります。
もっとも、すべての企業に共通する最適解が存在するわけではありません。依然として新規オフィスの開発や大規模内装は活発に行われており、とりわけ金融サービス分野がその中心的な担い手となっています。たとえば、JPモルガンは昨年末にパーク・アベニューに新たな60階建て本社を完成させ、アメリカン・エキスプレスもダウンタウンで新本社の建設に着手しました。また、Deloitteのハドソンヤードでの本社開発も進行中です。
テクノロジー企業もまた市場を牽引する存在であり、従業員がオフィスに集うこと自体に価値を見出せる空間づくりを重視しています。スリープポッドやゴルフシミュレーターといった設備に加え、家庭の延長とも言える環境をオフィス内に取り込む動きが広がっています。 ただし、こうした共用設備・サービスの充実はテクノロジー企業に限ったものではありません。法務、金融、プロフェッショナルサービスといった分野でも、デスク密度を下げる一方で、働く人にとって魅力的な空間づくりを優先する傾向が強まっています。